疲労感
疲労感とは、「疲れたな、休みたいな」という心の感覚をいいます。
それでは、この疲労感はどういったメカニズムで生じるのでしょか。
当たり前ですが、疲労感は感覚なので、脳の中で生じます。具体的には、人間の体へのストレスの反応により炎症性サイトカイン(タンパク質)が生じ、これが脳に伝わって疲労感を感じさせるのです。
メカニズムとしては、仕事が忙しくなるなど体に負荷(生理的疲労)が生じると、これが、細胞レベルでの酸化ストレス等を生じさせて、eIF2α(真核生物翻訳開始因子)のリン酸化が起こり、アポトーシス(細胞死)、HHV-6(ヒトヘルペスウイルス6)の活性化や炎症性サイトカインが発生するのです(統合的ストレス応答)。
疲労感は、炎症性サイトカインが脳に伝わることで感じますが、一方で細胞レベルの疲労そのものは、eIF2αのリン酸化による細胞のタンパク質合成の停止やアポトーシスを生じさせます。細胞レベルの疲労は、ウィルス感染などストレス下では、まともなタンパク質を作れないということで、いったんその合成をストップさせるイメージです。
ここで注意しておきたいのは、仕事が忙しくなる場合に、上記のような純粋に体が疲れたことによる作用に加えて、心理的な作用が働くことです。この脳からスタートする作用(HTP軸)よって、逆に疲労感は弱まることになります。
具体的には、心理的ストレスを感じると、脳の視床下部で副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)が発生し、これにより、脳下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が放出され、さらに、副腎皮質からコルチゾールなどのホルモンが分泌されます。加えて、視床下部から交感神経経由でノルアドレナリンやアドレナリンが分泌されます。
この結果、コルチゾールが炎症を抑制するとともに、ノルアドレナリンやアドレナリンが興奮作用を生じさせることで、疲労感が弱まるのです。
そのため、仕事で無理しているときなど、体は疲れているのに、一時的に疲れを感じなくこともあります。
もっとも、体は疲労している状態に変わりはないので、無理をせず、疲労を回復するために、ゆっくり休むことが大切です。
疲労感を抑える食事としては、抗酸化作用のあるニンニク、ウナギや焼肉などがあります。ただし、抗酸化食品は肝臓のeIF2αの抑制による炎症性サイトカインを減少させますが、心臓、脳や筋肉などのリン酸化は抑制されないことに留意が必要です。
疲労自体を回復させるものとしては、軽い運動が効果があり、脱リン酸化を促します。また、ビタミンB1(アリナミン)も効果があります。なお、飲酒によりビタミンB1が大量に消費される点は留意しておいてよいでしょう。
このほか、ガンマ・オリザノール(米ぬか)、ケルセチン(玉ねぎ、リンゴ)、アリセリン(カツオ、鶏の胸肉)などが脱リン酸化酵素の増加を促すため効果があるようです。
参考文献
近藤一博「疲労とはなにか」講談社(2023)